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“良い”と“優れた”ペネトレーションテストの違い

トム・ウェッジベリー 主任セキュリティコンサルタント – LRQA

市場にはペネトレーションテストを提供する企業が数多く存在しており、適切なセキュリティパートナーを選ぶのは容易ではありません。形式的なチェックで終わる対応と、実質的な価値をもたらす取り組みとの違いを理解することが重要です。LRQAのトム・ウェッジベリーが、良質なペネトレーションテストサービスの条件と、そこから本当の価値を引き出す方法について解説します。

 

ペネトレーションテストの役割を再考する

ペネトレーションテストは「技術的な弱点を洗い出すためのもの」と誤解されていることが少なくありません。実際、多くの企業では、テストの範囲を簡単に決めてツールを使って診断を行い、脆弱性の一覧を報告書にまとめたあと、それを保管するだけで終えてしまうのが現状です。

しかし現在のサイバー環境では、脅威の手口がますます巧妙化しています。クラウド設定の不備、盗まれた認証情報、サプライチェーンの侵害、さらにはAIを使った欺瞞などが組み合わされる中で、従来のやり方ではリスクを見逃す可能性が高くなります。

効果的なペネトレーションテストは、単に自動ツールで脆弱性を検出するだけではありません。
本当の価値は、実際の攻撃者がどのようにシステムを侵害できるかを示し、それに対して自社の防御がどこまで耐えられるかを検証することにあります。そのためには、より深い分析、慎重なテスト設計、そして各脆弱性がビジネスに与える影響を理解することが不可欠です。

 

過信がもたらす新たなリスク

脆弱性の深刻度が低い、あるいは問題が見つからなかったとされるペネトレーションテストの報告書を受け取ると、安心感を得られるかもしれません。しかし、そこで重要なのは、テストの範囲が適切であったか、シナリオが現実的であったか、そして攻撃者が実際にどのようにシステム内を移動するかを再現できていたかを検証することです。

同じ脆弱性が企業内で繰り返し発見される事例は後を絶ちません。これは、問題が報告されなかったからではなく、十分に理解されていなかったことが原因です。脆弱性への対応において、優先順位の明確化や継続的なフォローが欠けている場合、どれほど精度の高いテスト結果であっても、見過ごされたり誤って解釈されたりする可能性があります。

このような状況では、過信が深刻なリスクとなり得ます。経営層や利害関係者が「テストを実施したから安全である」と認識してしまうことがありますが、テストがビジネスの背景や横方向の攻撃、複数の脆弱性が連鎖するリスクを考慮していなかった場合、その「安全性」は表面的なものに過ぎません。

 

成果を左右するのは、スコープ設計の段階

ペネトレーションテストの効果は、最初のスキャンや手動による侵入試行が始まる前、スコープ(実施範囲)の設計段階でほぼ決まります。

すべての資産を対象とする、あるいは外部公開されているシステムのみに焦点を当てるといったアプローチは、一見合理的に思えるかもしれません。しかし、前者はリソースが分散し検証の深度が不足する可能性があり、後者は内部の重要な経路を見落とすリスクを伴います。たとえば、些細な設定ミスが特権の昇格や機密情報の流出につながるケースなどが該当します。

そのため、スコープ設計は脅威モデリングから始めるべきです。
重要な資産は何か、想定される攻撃者は誰か、どのようなコンプライアンス要件があるか、そしてこの企業にとって「侵害された状態」とは具体的にどのようなものか - こうした問いに答えることが、意味のあるリスクベースのテスト設計につながります。

その結果、評価しやすい項目ではなく、本当に優先すべき対象に焦点を当てたテストが可能になります

 

ツールよりも重要なのは手法

セキュリティテストにおいてツールは欠かせない存在ですが、それだけで十分とは言えません。
自動スキャナーはベースラインの把握には有効ですが、ビジネスロジックの欠陥、複数の脆弱性が連鎖するリスク、あるいは状況に依存する脆弱性など、より深層にある問題を見落とすことが少なくありません。

有効な洞察は、技術的な知見とビジネスの背景を踏まえた手動による検証から生まれます。これにより、テスターは一つの侵入口から別の領域へと“横移動”し、システム内の経路をたどりながら、複数の要素がどのように組み合わさって実際のリスクを形成するかを明らかにすることができます。

LRQAでは、すべての案件において「7段階の手法」に基づいてテストを実施しています。
偵察、マッピング、侵入、報告、再テストといった各フェーズを通じて、現実の攻撃がどのように展開されるかを可視化し、それを未然に防ぐための具体的な対策を導き出します。

 

実効性につながる報告とは

ペネトレーションテストにおいて見落とされがちな要素のひとつが、検出された内容の伝え方です。

報告書が単なる脆弱性の一覧に終始し、優先順位や背景情報が示されていないケースは少なくありません。その結果、セキュリティ担当者は対応の判断に迷い、技術部門は対応に圧倒され、経営層はビジネスへの影響を把握できないままになってしまいます。

実効性のある報告には、経営層向けの要約、技術的な詳細、リスクの可視化(ヒートマップ)、そして具体的な対策案が含まれている必要があります。こうした構成により、報告内容が単なる文書として終わるのではなく、理解され、行動に移され、解決へとつながるのです。

そのため、リアルタイムでの報告会(デブリーフィング)は非常に重要です。シナリオを共有し、対応の優先順位を整理し、関係者全員がリスクの意味と次のステップを正しく理解する機会を提供します。

 

ペネトレーションテストは一度きりの対応ではない

ペネトレーションテストは、年に一度の形式的なチェックで済ませるべきものではありません。効果的なセキュリティ対策には、継続的なフォローアップ、検証、改善のプロセスが組み込まれている必要があります。その目的は、単にリスクを明らかにすることではなく、リスクそのものを低減することにあります。

この取り組みにおいて重要なのが、再テストの機会です。再テストを行わなければ、脆弱性が実際に修正されたかどうか、あるいは新たな問題が発生していないかを確認することはできません。また、学習と改善のサイクルがなければ、同じ問題が繰り返し発生する可能性があります。

優れたペネトレーションテストサービスは、各テストを単発の対応ではなく、継続的なセキュリティ強化の一環として位置づけています。それにより、組織は現実の脅威に対して「予防・検知・対応」する力を着実に高めていくことができます。

 

「優れた」ペネトレーションテストとは何か?

LRQAの経験に基づくと、価値のあるペネトレーションテストには以下の要素が含まれます:

  • ビジネスの優先事項に沿った脅威ベースのスコープ設計
  • 自動スキャンに頼るのではなく、熟練した技術者による手動テスト
  • アイデンティティ、クラウド、サプライチェーンなど、関連性の高い攻撃経路の網羅
  • 明確かつ状況に即した報告書の提供
  • 報告会(デブリーフィング)や対策支援、再テストの実施
  • セキュリティ上の発見をビジネスへの影響やコンプライアンス要件と結びつける視点

価値は、報告書のページ数や検出された脆弱性の数では測れません。本当に重要なのは、そのテストが有意義な見解を提供し、実際のリスクを低減し、時間をかけてセキュリティ体制を強化することに貢献したかどうかです。

 

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ペネトレーションテストについてさらに深く理解するために、LRQAが提供する「ペネトレーションテストの基本ガイド」 では、攻撃経路の種類、テスト手法の違い、現在のサービス提供者の品質を評価するための視点などを詳しく解説しています。また、実践的な評価に活用できる9項目のチェックリストも収録されています。

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まとめ

ペネトレーションテストは、組織に対して明確な視点を提供するものであるべきです。それにより、自社がどこに脆弱性を抱えているのか、何がリスクにさらされているのか、そしてレジリエンスをどのように構築すべきかを継続的に把握することが可能になります。

脅威の手法がますます複雑化する現在において、状況に即した高品質なペネトレーションテストの価値はこれまで以上に高まっています。LRQAのペネトレーションテストサービスについて、詳しくは以下をご覧ください。

 

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