2025年2月、欧州委員会は、EUにおけるサステナビリティ報告とデューディリジェンスの枠組みを簡素化・改善することを目的とした包括的なオムニバス法案を提案しました。
この提案は、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)とコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)を含む、主要な2つの指令に影響を与えます。
CSDDD:デューデリジェンスは依然として戦略的な必須事項
オムニバス簡素化法案によるCSDDDの主な変更点と影響
- 対象企業:従業員数と売上高の基準を引き上げ、従業員5,000人、売上高15億ユーロに設定。非EU企業も、EU域内で15億ユーロを超える売上がある場合は対象。対象範囲を拡大する可能性を検討する見直し条項を含む
- 民事責任制度:新たなEU全体の民事責任制度は導入されず、加盟国ごとに定義
- 悪影響評価:重大性と発生可能性に基づき優先順位付けを認める。評価は少なくとも5年ごと、または必要に応じて随時実施(実際の悪影響、新市場参入、M&Aなど)
- 契約解除:契約解除は不要。条件付きで契約の一時停止が可能で、サプライヤーと協力して解決策を模索
- 制裁金:最大で全世界売上高の3%
- バリューチェーンの対象範囲:リスクに基づくアプローチを採用し、悪影響が発生する可能性が高く重大な部分に焦点。「活動の連鎖」には、上流のビジネスパートナー、自社事業、輸送など一部の下流活動を含む
- サプライヤーおよび利害関係者との関与:合理的に入手可能な情報を考慮したうえで、より的を絞った対応を認める。情報要求は必要な場合に限定(バリューチェーンの対象は従業員数5,000人に関連)
変更されない点
- HREDDの基本要件:リスク分析、予防、軽減、是正、苦情処理の仕組みは引き続き必須
- 事業上の圧力:正式な対象外の企業でも、対象企業である顧客やパートナーからデューデリジェンス対応を求められる可能性あり(例:大手小売業に製品を供給するTier 1消費財企業)
LRQAの主要な推奨事項
- CSDDDを戦略的なリスクマネジメントツールとして扱う:HREDDをガバナンスと事業運営に組み込み、レジリエンスを強化。十分なリソース投資が重要。期限は延長されたが、対応には時間がかかるため、早期の取り組みが必要
- バリューチェーンを把握する:Tier 1を超える重大なリスクをマッピング・分析し、その見解を意思決定に活用。マッピングを一度きりの作業にせず、影響を受ける利害関係者や専門家の視点を取り入れ、重要な影響や事業リスクを見落とさない
- リスクベースのアプローチを実施する:体系的にリスクを優先順位付けし、対応を段階的に実施。既存のERPと連携(可能な場合)。高リスクのサプライヤーとは、意味のある体系的な関与を行う
- データの精度を確保する:人に対する潜在的な悪影響に関するリスクデータを確認し、自社の事業活動や対象国を網羅しているかを確認
- チームワークを重視する:関連部門と連携し、HREDDの取り組みを統合。サステナビリティ、法務、人事、調達が連携して対応
- 体系的な文書化を開始する:当局との対応に備え、リスクベースのデューデリジェンス手法を体系的に記録
CSRD:報告は簡素化されたが、求められる対応は変わらない
オムニバス簡素化法案によるCSRDの主な変更点と影響
- 対象範囲の縮小:対象は従業員1,000人以上、純売上高4億5,000万ユーロ超のEU企業。上場子会社や金融持株会社は除外。対象範囲を拡大する可能性を検討する見直し条項を含む
- 非EU企業:過去2年連続でEU域内の純売上高が4億5,000万ユーロ超の第三国企業が対象。非EU親会社が対象の場合、純売上高2億ユーロ超の子会社や支店も対象
- 報告タイムライン:初期対象企業は2024年1月1日以降の3会計年度、従来のCSRDとESRSに基づき報告を継続。2027年1月1日以降開始の会計年度から新しい縮小範囲を適用。加盟国は国内法への移行時に、初期対象企業が縮小範囲外となる場合、報告免除を認めることが可能。非EU企業は2027年度または基準適用時に報告開始
- 気候移行計画:開示要件はESRS E1(気候変動)に残存。EU気候法およびパリ協定との整合性が必要
- 業種別基準:業種別基準は公表されないが、任意の業種別ガイダンスが策定される可能性あり
- 中小企業のデータ制限:非上場SME向けの任意サステナビリティ報告基準(VSME)に基づき、データ要求に上限を設定。SMEはVSME範囲外のデータ要求を拒否可能
- 保証:報告書は限定的保証が必要。保証提供者は「重大な虚偽があることを示す情報は確認されなかった」と結論付ける。EUは2026年10月1日までに限定的保証の基準を採択し、方法論と手続きを明確化
- ESRSの簡素化:EFRAGは修正版ESRSを欧州委員会に提出。委員会は2026年に委任法として実施予定。2027年度から適用見込み
変更されない点
- 報告の基本要件:企業は引き続き、サステナビリティ関連のテーマについて限定的保証付きで報告する必要があります
- 投資家や顧客の期待:大規模な利害関係者は、自社の報告のためにCSRDに沿ったデータを引き続き求めます
LRQAの主要な推奨事項
- CSRDを戦略的に活用する:社内のサステナビリティ連携を強化し、責任ある企業としての立場を確立する
- 気候移行計画を策定する:SBTiやIFRSなどの基準もこれを求めています。顧客がスコープ3排出削減のために自社データを必要とする場合があります
- CSRDへの整合性を確保する:対象外であっても、利害関係者からCSRD準拠のデータを求められる可能性があります
CSRDとCSDDDの相乗効果
- CSRDでは、企業はバリューチェーン全体にわたって重要なサステナビリティ課題を特定し、報告する義務があります。特に、CSRDにおけるダブルマテリアリティ評価(DMA)では、サステナビリティに関連する影響、リスク、機会を特定・評価することが求められます。
- DMAとCSDDDにおけるHREDDプロセスには、内容と方法論において重要な共通点があるため、両プロセスを最初から連携させることが合理的です。効果的かつ効率的な実施は、リソースを節約し、リスクを最小化します。
- これは、すでにCSRDの対象でありながら、適切なHREDD体制の構築をまだ開始していない企業にとって特に重要です。
まとめ
