COP30の成果は、国際人権を基盤とした公正な移行の理念を、世界の気候交渉の中心に据える大きな転換点となりました。
公正な移行に向けた新たな節目
11月6日から21日にかけてブラジル・ベレンで開催されたCOP30では、公正な移行に関して段階的な進展がありました。交渉担当者は、COP27で導入され、COP28で拡充された「公正な移行作業計画(JTWP)」を強化するとともに、化石燃料依存の経済から脱却し、人権や地域社会、労働者を確実に守る方法を模索しました。議論の中心は、エネルギー転換のスピードだけでなく、その公平性にありました。人権と参加を基盤とし、労働者の権利や先住民族に対する事前の自由で十分な情報に基づく同意、労働者との真の社会的対話、影響を受ける権利保持者の実質的な参画を含むことが求められています。
しかし、パリ協定から10年が経過した今も、進展は限定的です。気候変動対策は停滞し、格差は拡大し、脆弱な地域社会が不均衡な影響を受けています。既存の取り組みは、各国の気候目標との整合性を欠き、地域の状況を踏まえた対応や利害関係者の声を反映できていません。こうした課題は、COP30での先住民族による抗議活動で最も鮮明に示されました。交渉から排除されることが多く、声を届けるために会場へのアクセスを遮断したり、抗議行動を行ったりしました。
COP30では、「ベレン行動メカニズム(BAM)」が発表されました。これは、断片化を解消し、公正な移行に向けた政策や企業の取り組みを支援するため、対話や優良事例、知識を共有する国際的な枠組みとして強化されたものです。
COP30は、気候変動対策の取り組み、人権、価値創出が対立する目標ではなく、互いに補い合う重要な要素であることを明確にする場となりました。
ベレン行動メカニズム:その重要性
ベレン行動メカニズム(BAM)は、UNFCCCのガバナンスおよび実施の枠組みであり、COP30の主要な成果の一つとされています。現在、各国の気候目標(NDC)と企業の気候関連の取り組みは依然として乖離しています。企業はしばしば高い目標を掲げていますが、こうした取り組みを集約し、国家や世界の目標への貢献度を評価する仕組みはありません。BAMは、国家の気候目標(NDC)と企業の取り組みを結び付け、政策と事業活動の一貫性を確保することで、現行の世界的な移行努力における断片化と不十分さを克服するために設計されました。BAMは、高いレベルの誓約を実効性のある仕組みや実践的な責任体制と結び付け、企業の取り組みが世界目標の達成に確実に寄与することを目指しています。
国家にとって、BAMは断片的な取り組みから、社会的公平性を国家の移行戦略の中心に据えた体系的な枠組みへの転換を意味します。政策立案者は、企業の自主的な誓約を補完する規制や財政措置を設計し、国際的な議論を国内で実効性のある行動に変えるため、信頼性のある資金を動員する必要があります。これは単なる脱炭素化ではなく、産業とともに労働者や地域社会を重視する、経済全体にわたる取り組みを推進することです。公平性と受容性を確保するため、社会保障、スキル開発、人権保護といった課題への対応が成功の鍵となります。
企業にとって、BAMは目標から行動への転換を示しています。排出削減にとどまらず、公正な移行の原則に沿って事業活動やサプライチェーンが人権と環境基準を尊重することが求められます。これには、労働力の再教育への投資、調達や投資判断に社会・環境面のデューデリジェンスを組み込むこと、影響を受ける関係者の声を聞くこと、そして企業の気候目標を国家目標と結び付けることが含まれます。
企業リーダーに求められる実践的な対応
- 規制の動向を見据える
各国政府は、公正な移行の原則を国家政策に組み込み、社会保障、労働力の再教育、責任あるサプライチェーンに関する要件を追加しています。しかし、196の署名国のうち気候計画を更新したのはわずか21か国であり、規制の空白、不一致な目標、そして突然の政策転換の可能性が生じています。
企業にとっての課題は、世界の気候やサステナビリティ関連の規制を追跡することにとどまりません。移行計画は、新たな義務に沿っているかどうか審査される必要があります。サプライチェーン、投資、事業活動全体にわたり、人権と環境に関するデューデリジェンスを統合することが求められます。自主的な対応から義務化への移行が進む中、対応を怠れば遅れを取ることになります。
- 気候対策に人権と誠実性を組み込む
COP30では、脱炭素戦略やその他の気候関連の取り組みに、人権と環境影響評価を組み込み、負の影響を防止・軽減することが企業に求められることが明確になりました。
さらに、腐敗や不正は気候対策に深刻なリスクをもたらします。ブラジルでの違法伐採や鉱業に関する賄賂、コロンビアのカーボンオフセット事業に関連する疑惑、再生可能エネルギー契約や不透明なロビー活動など、さまざまな分野で問題が報告されています。誠実性は、効果的な気候ガバナンスの基盤となっています。
こうしたリスクに対応するため、企業にはサプライチェーンの所有構造を明確に把握し、腐敗や不正の兆候を特定し、環境と人権への影響を評価するための強固なプロセスが必要です。
人権の尊重は選択肢ではなく、正当で効果的かつ持続可能な企業の気候対策に不可欠な要素です。
- 労働者と地域社会との対話を深める
COP30では、労働者や労働組合が、低炭素経済への移行において労働者と家族を守る必要性を強調しました。この転換は労働市場を大きく変え、数百万の雇用が変化または消滅する一方で、再生可能エネルギー、持続可能な農業、循環型産業で新たな役割が生まれます。
「良質なグリーンジョブ」という約束を現実にするためには、公正な賃金、安全な労働環境、社会保障、適正な労働基準が不可欠です。労働者との対話は単なる形式ではなく、公正で効果的な移行の基盤です。労働者は現場の知見と地域の視点を提供し、気候戦略を実践的で包括的なものにします。声を無視すれば、労働権の侵害、評判の失墜、事業の混乱を招く恐れがあります。対話にとどまらず、企業はサプライチェーン全体で適正な労働基準を組み込み、再教育への投資を進める必要があります。研修や移行支援は、労働者が新しい技術や役割に備えるために不可欠です。今行動する企業は、人材を確保し、事業の回復力を高め、競争力を強化できます。
同様に、公正な移行を実現するためには、企業のデューデリジェンスにおける地域社会との関与も重要です。影響を受ける地域社会を意思決定に参加させることで、リスクの早期特定、地域に適した解決策の共同創出、影響と利益の公正な分配が可能になります。この参加型アプローチは信頼を築き、人権を守り、移行戦略を公平で持続可能なものにします。
- 責任ある調達とサプライヤーの移行支援
クリーンエネルギーへの世界的な転換は、重要鉱物、再生プラスチック、その他の低炭素部材に対する前例のない需要を生み出しています。この急増は経済的な機会をもたらす一方で、重大なリスクも伴います。適切なデューデリジェンスを欠けば、搾取や危険な労働環境、生態系への悪影響を助長する恐れがあります。
COP30では、移行鉱物の採掘、循環型産業の拡大、気候目標の推進は、人権を守り、生態系の限界を尊重しなければ持続可能ではないと警告されました。これには、サプライチェーンのリスク兆候の特定、生態系における立ち入り禁止区域の設定、公正な移行と透明性の原則を事業全体に組み込むことが求められます。
森林破壊、重要鉱物、プラスチックの循環利用に関連するサプライチェーンは、規制当局、投資家、消費者からの監視が強まっています。今行動し、ガバナンスを強化し、リスクを把握し、管理策を導入する企業は、悪影響を防ぎ、公正な移行のリーダーとしての地位を確立できます。
LRQAの見解
気候変動はもはや遠い脅威ではなく、資産、事業運営、事業継続にすでに影響を及ぼしています。市民社会の影響力の高まりや規制の不確実性が圧力を強め、単なるコンプライアンスでは不十分であり、公正で包括的な移行の必要性が浮き彫りになっています。
LRQAは、信頼できる気候対策は強固な説明責任とデューデリジェンスの仕組みから始まると考えています。移行戦略に人権、環境基準、社会的公平性を組み込むことは、信頼とレジリエンスを確保するために不可欠です。LRQAのサステナビリティに関するアドバイザリーサービスとサプライチェーン保証の専門性は、高まる期待に応え、迅速であるだけでなく、公正な移行の実現を支援します。
世界が注目しています
COP30では、各国や企業の取り組みが厳しく注目されています。言葉だけでは評価されず、実際の行動が求められます。実施状況が確認でき、第三者によって検証され、信頼性のある取り組みであることが重要です。
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