ここ数年の世界的な出来事は、食品・飲料分野を担う方々に対して、一つの事実を明確に示しました。それは、食品安全に影響を与える要因が急速に変化しており、予測が難しい形で進むことが多く、既存の仕組みではそのスピードに追いつけないということです。
ウクライナで続いている戦争は、その典型例です。地政学的な危機として始まった出来事が、すぐに農業サプライチェーン全体の混乱につながり、小麦やひまわり油などの原料供給に影響を与え、多くの食品関連企業が重要な原料の調達先を見直さざるを得ない状況になりました。現在、イラン情勢の緊張が高まる中で、同じような懸念が再び表れ始めています。すぐに明確な影響が出るわけではなく、劇的な変化として表れるわけでもありませんが、組織が立ち止まり、自社のサプライネットワークの依存度を見直し、さらに重要な点として、食品安全の仕組みが再度の混乱に耐えられるかどうかを考えざるを得ない状況が確実に生まれています。
多くの組織が食品安全リスクの管理に用いている仕組みは、より安定した事業環境を前提に構築されてきました。サプライチェーンが比較的予測しやすく動き、規制の要件も緩やかに変化していた時代のものです。しかし現在大きく変わったのは、外部要因によって食品の流通の仕組みそのものが、以前よりはるかに速いスピードで変わり得るようになったという点です。
ガバナンスに関わるリスク
最近のリコール報告は、食品分野の日常的な業務の中でどのようにリスクが顕在化するかを示す、別の視点を提供しています。食品基準庁(FSA)のアレルギー警告やリコール通知を分析した報告書では、Aldi や Lidl などの大手スーパーマーケットが、2025年に最も多くのリコール件数を記録した企業として挙げられました。Lidl のリコールの一部は、特定の製品におけるリステリアやサルモネラの可能性といった汚染リスクに関連していました。一方で Aldi のリコールは、卵や小麦などの原材料が包装に表示されていない未表示アレルゲンに起因するものが多く見られました。いずれの場合も、対象製品は販売中止を余儀なくされました。
アレルゲンは、誤りが許されない食品安全リスク領域のひとつです。未表示のアレルゲンは特に弱い立場にある消費者に深刻な危険をもたらすため、こうした事案は必ず即時のリコールにつながります。同時に、アレルゲン情報は市場ごとに異なる規制枠組みの下にあり、包装上での表示方法は地域によって異なります。今回のリコールの直接の原因ではありませんが、最終的な販売地域によってガバナンス要件が変わり得ることを示す例となっています。複数の地域で事業を展開する組織にとって、こうしたばらつきは食品安全リスク管理の複雑さを増す要因となります。
これは、現代の食品システムでは、従来の枠組みが想定していない形でリスクが現れることがあるという点を改めて示しています。食品業界は長年、施設内の危害管理に精通してきました。HACCP の考え方を数十年にわたり適用してきたことで、製造や加工に伴うリスクを特定・管理する体系が確立されています。しかし、こうした仕組みが当初想定していなかったのは、急速に影響力を増している外部要因です。
気候に関わる要因
気候パターンは、この変化の代表的な例です。気候リスクの議論は炭素削減目標やネットゼロに焦点が当たることが多いものの、食品分野にとって最も差し迫ったリスクが必ずしもそこにあるわけではありません。
食品分野では、影響はより実務に近い形で現れます。気温上昇は、特定の作物が栽培できる地域や生産の安定性に影響を与え始めています。その結果、長く供給を担ってきた地域が徐々に変わり、企業は新たな地域や未知の供給者から調達を検討する必要が出てきています。これにより、サプライチェーンには異なる規制環境や農業慣行といった新たな変動要因が加わります。
また、気温そのものもリスクの一部となります。高い外気温は低温物流に負荷をかけ、特に冷蔵品や高リスク食品では、保管・輸送条件の管理がさらに厳しくなります。環境条件の予測が難しくなる中で、製品の品質、そして何より安全性を保つ負担は確実に増しています。こうした状況は決して新しいものではありませんが、その影響は以前よりはるかに明確に表れています。
経済の不安定化
経済的な圧力は、さらに別のリスクを生み出します。食品・飲料分野はもともと利益率が高くない業界ですが、エネルギー、原材料、人件費の継続的な高騰により、各組織は厳しい運用判断を迫られています。多くのケースで設備投資が先送りされ、雇用形態も一時的な労働者や契約労働者の活用が増えています。時間の経過とともに、こうした変化は、強固な食品安全の仕組みを支える組織知や安定性を損なうことがあります。
同じくらい重要なのは、経済的不安が最終的に消費者自身に与える影響です。近年の相次ぐ値上げは多くの消費者に不満をもたらしており、その不満は、上昇する運営コストと、価格を抑える圧力の双方に向き合う企業に向けられています。
これは多くの面で、非常に難しい均衡です。何十億もの人々が基本的な生活のためにこの業界に依存していますが、収益が安定しなければ、ブランドも、製造も、店頭に並ぶ食品も維持できません。同時に、家計の負担が重い消費者が価格上昇時により安価な選択肢へ移るのは自然な流れです。
結論
これらの圧力は互いに重なり合い、事業環境とそれを支える仕組みには、かつて想定されていた以上の俊敏性が求められるようになっています。
ここで重要になるのが、変化のスピードです。食品安全の仕組みは、監査、認証プログラム、サプライヤー承認など、年次で検証・妥当性確認される体系的なプロセスを中核に構築されています。これらは、監督対象の環境に一定の連続性があることを前提としています。外部環境の変化がそれらの対応速度を上回ると、どうしても隙間が生じます。
だからといって、既存の仕組みが有効でなくなるわけではありません。むしろ、食品分野が培ってきたリスクマネジメントの規律は大きな強みです。ただし、これらを補完するために、事業を取り巻く環境に対するより広い視界が必要になります。
実務の観点では、リスクの見方を少し変えることが求められます。個別のインシデントや監査結果だけで捉えるのではなく、「特定のサプライチェーンは地政学的混乱にどの程度さらされているか」「市場間で製品が移動する場合、規制の違いがどこでコンプライアンス上の課題を生むか」「新たな調達の判断によって、既存の管理ではまだ十分に捉え切れていない不確実性が持ち込まれていないか」といった問いを立てる発想です。
グローバルな供給網で事業を行う組織にとって、優先課題は明確です。コントロール対象である環境の変化に合わせて、リスクマネジメントも進化させる必要があります。安定を前提に設計された仕組みは、いまや絶えず動く環境で機能することが求められています。その現実を認識することが、製造・供給する食品の健全性と安全性を守るうえで不可欠です。
いまの取り組みを、明日のリスクを強みに変える
LRQAは、食品・飲料分野で40年以上の実績を持つ、リスクマネジメントのグローバルパートナーとしてお客様に信頼されています。
食品・飲料分野の取り組み
食品・飲料分野で提供している取り組みをご紹介します
